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GREENa LAB

「自然エネルギー」をめぐる、ヒト・モノ・コトの実験室

KUME.JP TOKYO1935

2017.5.2 公開

日本のものづくりも、
電力も、地産地消がいいね。
久米繊維工業 取締役会長 久米信行氏インタビュー(1/2)

東京・墨田の下町から、世界へ。
1935年創業、異業種とのコラボも話題を呼ぶ老舗のTシャツメーカー、久米繊維。
カリスマ・久米氏のものづくりへの情熱と、グリーン電力への思い…「Tシャツとエネルギー」にとどまらず、刺激的な話がどんどん飛び出しました!
もう21世紀なんか来ないと思っていた
久米繊維は早い時期から環境への取り組みをいろいろとされていますが、それはなぜですか。
久米
 もともと私は小学校ぐらいのとき、公害の真っただ中で育った世代なんですよね。外に出れば光化学スモッグ、映画を見れば『ゴジラ対ヘドラ』。学研の『科学』と『学習』を見れば温室効果の話とか、地球温暖化の話が出て来て、大学に行くと宇宙船地球号が危ないという話。『成長の限界』レポートがあったりしまして、正直言うと、もう21世紀なんか来ないんじゃないかと思っていたぐらい。僕らの友人の世代はそういう人、多いんですよ。
 そしてたまたま、家業がTシャツという商売。まず最初に気になったのは農薬の話です。綿花って、あんまり知られてないんですけど、すごく農薬を使ってるということにショックを受けて。一番最初のきっかけは、オーガニックコットンを使おうということでした。
 自分たちの代だけで終わるような商売ではなくて、子どもや孫にも誇れるような商売がしたいと思うようになったんです。
今、Tシャツの製造にグリーン電力を使用されていますが、グリーン電力との出会いは何だったんでしょう。
久米
 日本のものづくりというのは今、危機的な状況。日本の繊維製品の自給率って3%ぐらいなんです。労働集約的な産業なので、全部、工賃の安い国々に行ってしまう。
 私たちもエコなことをやらなきゃいけない反面、商売の面で行き詰まっているとき、NPOの方々と出会うことが多くて。NPOの方はコスト最優先よりは、もう少しサスティナブルな考え方を持っているし、日本のものづくりにも敬意を払って下さるし、オーガニックコットンにも興味を持って下さる。そんなところで飯田(哲也)さんはじめ、グリーン電力のフロンティアの人たちと出会って……あるときTシャツをつくろうと言われたんですよね。
久米信行

それがこのTシャツですか。風力発電がモチーフになってますね。
久米
 恥ずかしながら、そのときに初めてグリーン電力というものを意識して。久米氏のところはオーガニックコットン、エコなことをやっているからということで、Tシャツをつくって下さった。そしてグリーン電力を広めたくて電力証書を作っていると初めて聞いたんです。
 コスト競争力の世界ではもう勝負ができないので、やっぱり心あるNPOの方々に選ばれるようなTシャツを作りたいと。そこで素材はオーガニックコットンで、作るのは国内で…移動で無駄なCO2を出さないようになるべく近い所で、地産地消が一番いいと。そして電力も、なるべくグリーン電力でやりたいと思ったんですね。
それが久米繊維としてのひとつの転換点になったのですか。
久米
 今まで私たちはTシャツをたくさんつくってきたんですけど、ほとんどOEM、下請け生産だったんです。下請けだと、安くつくれる海外に行ってしまう。久米繊維謹製のネームについてちゃんと評価して下さるような方と、数は最初は少なくても取引をしたい。だから、久米繊維謹製という名前をつけて、その名前のものは全てグリーン電力にすることにしました。
 自分たちのブランドが浸透すればするほどグリーン電力を使うということになるし、逆にそのグリーン電力を使っているような会社に注文出したいっていう人が久米繊維のTシャツ流れが来てさることで、少しずつ広まっていったのです。
     
エネルギーが地産地消になると、戦争も起きない!?
 
3.11のずっと前から、グリーン電力を使っていらっしゃったんですね。
久米
 そうです。
 私から見ると希望の光というのは、エネルギーなんです。本気でやれば、自給に近いことができそうだと、これはすごい、いい話なんですよね。
 例えば今の時代が戦争前と似てるというような話が出ますよね、いろんな意味で。日本が戦争になったことを考えると、元はやっぱりエネルギーの話ですから。石油がなくなっちゃって、原油が入ってこないってところから戦争になってるわけですから、これが地産地消になると、だいぶ変わると思っています。
久米信行

「地産地消」は、エネルギーに限らず時代のキーワードですが。
久米
 今、墨田区の観光地域づくり、全国の観光地域づくりの仕事もやってるんですが、私が理想とする社会っていうのは、ある意味20世紀の社会の裏返し。20世紀はグローバル文明、要は世界で一番安い所でつくって、一番売れる所で売ろうという、大量生産・大量消費の世界ですよね。その結果、文明は栄えて便利になったけど、文化がなくなってしまった。日本中どこに行っても、同じような町になってしまいました。世界の主要都市に行っても、皆、同じ店が並んでるような。
 これは観光地域づくりからするとナンセンスで、今、旅をする理由の4割は文化だと言われています。例えば中国から来た方が爆買いをして、銀座にいたはずなのにいなくなった。今どこに中国のリピーターの女性が行ってるかというと、川越に行って着物を着て、古い町並みがいいなって言って、そぞろ歩いたりしてるわけですよ。これは非常に新しい現象なんです
単にモノだけじゃなくて、背景にある文化を体験するんですね。
久米
 私が理想とする社会っていうのは、もう本当の意味の地産地消。それぞれの町に行ったら郊外のスーパーではなくて、道の駅や商店街に行って、地元の人がつくったものを食べたり着たりする世界が一番、美しいと思う。そういう流れが来ていると感じています。
着る、買う、作る…Tシャツと人との関係が変わってきた
久米
 例えば私たちが最近一生懸命やってるのは、地酒のTシャツ。
 私の父の時代は、海外からライセンスを買って、カミュやナポレオンなど洋酒のロゴが入ったTシャツをつくっていました。海外旅行に初めて行った世代、海外のものは素晴らしいという感覚です。
 今はそれが逆転して、海外の方が、日本の文化が素晴らしい、日本酒や、日本料理はおいしいねって思って下さってる。たった10年か20年前、ひょっとしたら日本酒の酒蔵は、大企業以外は全部つぶれるかもしれないって時代があったんです。だけど今、ニューヨークでも地酒ブームになっていたり…違っているものがたくさんあるほうが、個性的なほうがいいという時代になりましたよね。
個性的なものや多様性が認められる時代ということですね。
久米
 これはとっても、いいことですよね。私はファッション欲求段階説っていうのを前から唱えてるんですが…。
 うちの父親が日本で最初にTシャツをつくったときは、こんな肌着みたいなもの着て外、歩いてもいいんだっていう、生存欲求に近いプリミティブな段階がありました。次は帰属欲求。例えば私の少し上の世代だと、VANジャケットを着てないと銀座を歩けない時代があったそうです。日本中同じ。で、みんな同じが恥ずかしいとなって、オイルショックの後にはDCブランドが出てきた。人と違うものを着たくなったけど、まだやっぱりメディアやデザイナーの影響力が高くて、誰かが薦めたものを着たり、トレンドから外れたら新しいのを買ったり…。
今でも、流行に乗せられやすい人はたくさんいると思いますが。
久米
 でもTシャツの場合は今、うちのお客さんでも、自分が着たいものを、自分でつくる人が出てきたんです。
 さらにその先には、自分がつくったものを誰かに着てもらいたいっていう自己実現の欲求があります。昔だったらアパレル業を起こすという形だったけれど、今の方は仕事をやりながらフリマやネットやデザインフェスタで売る。素晴らしいことだと思うんですよね。極論すると、1億総デザイナーに近い形だと思うんです。
久米繊維

みんな、自分のつくりたいものをつくって着る。さらには売る。
久米
 いま私が着てるTシャツも、地元の北斎美術館をモチーフに、私自身が勝手にMacでつくったデザインなんです。砂浜美術館のTシャツアート展に出品するためにつくりました。
 これも21世紀的な現象だと思うんですけど…20世紀は素晴らしい有名なアーティストがいて、それをありがたく見るという美術館が多かったわけですが、砂浜美術館アート展には大作家の作品もあり、その横にうちの息子が描いた落書きも並んでる。自分のデザインを送ると、うちのオーガニックコットン、グリーン電力でつくったTシャツにインクジェットでプリントされて展示され、さらには終わったら返って来て着られる。すごく美しいイベントなんですよね。
オーガニックコットン、グリーン電力のTシャツが日本で一番たくさん並ぶイベントなんですよね、しかもいろんなデザインの。
久米
 楽しいですよ。子ども連れて行くと、すぐに自分の絵を探しに行きます。そしてその思い出を胸にして帰って1カ月ぐらいしたときに、そのTシャツが来て宝物になる。私たちTシャツつくってる人間からすると、1回か2回着てTシャツが捨てられるのが一番、いやなんです。やっぱり自分の思いがこもったものですから、お客さまの思いものせて長く着ていただくのが、一番いい。自分が好きでつくったものはなかなか捨てられないですね。
人がデザインしたものだと、やっぱり飽きたり流行から外れたりしてしまう。
久米
 いや、人がデザインしたものにしても、例えば今Tシャツをネットで買う人っていうのは…例えば戦国武将好きな人なら、自分の好きな武将を、自分の好きなデザインをしてくれた人から買って、買った後にお礼メールが届いたりFacebookで友達になったりするようなこともある。ファストファッションの逆で、スローファッション。このTシャツは久米繊維で、グリーン電力でつくったってことがわかる。デザインした人の顔も見える。
自然エネルギーも、いわば顔が見える電力ですよね。
久米
 これは新しい現象じゃなくて、よく考えたら江戸時代とか、昭和の初めはみんな、近所の人が揚げたコロッケ食べて、近所の人がさばいた魚食べてたでしょう。そして、ものづくりの人がいっぱいいたから、その人たちから直接買ったりしてたわけですよね。
時代遅れのものがウケる、素敵な時代
作り手の顔が見えるものを買う。それって昔は当たり前のことでもあり、今っぽい感覚でもありますよね。
久米
 インターネットのおかげでもあり、買う人の意識が変わったおかげでもある。もちろん今でも安ければいいとか、ロードサイドで買うのが好きな人も多いし、それを否定はしませんが…
 でも地球に優しいもの、つくり手の顔が見えるものを買おうという人が2割くらいいるだけで、文化も継承されるし、田園風景も、里山も継承されるかもしれない。そういうことを時代遅れにやってた所のほうが観光的に見ると、今、魅力的ですよね。
確かに今、全国的にそんな動きを感じます。
久米
 例えば墨田区なんて、東京の田舎ですから周回遅れみたいなもんです。向島行ったらいわゆる木造密集地域。昭和そのもので、長屋みたいな所にアーティストが住んだり、カフェができたりしてます。そういうのが、魅力的だってことになってきたわけですよね。
 ある意味、時代遅れのものに皆さん興味を持つようになって、そこへ行くと結構、外国人がいる。instagramでハッシュタグ東京、ハッシュタグカフェで検索して来るとか。これ、素敵な時代じゃないですか。
Tシャツの世界でも、同じようなことがあるんですか。
久米
 Tシャツを通じて、地酒屋さんや、無名に近いデザイナーとか、そういう人たちを応援しながら、なるべくダイバーシティ、多様なものを残したいですよね。人の意識が変わると求められる商品とか、企業の形態も変わりますから。
 大量生産・大量消費が行きすぎた結果、もっと個性を発揮したほうがいいと思うようになったり、海外に行って違う文化に触れるほど起こることもあったりする。海外に憧れて行って、日本がいいって言って帰って来る人がいるように、海外の人が日本に来て、日本のいいところは学ぶけれども、逆に自分の国の文化が好きになったりすることもある。こういうダイバーシティが広まるのが21世紀だと思ってます。
 Tシャツって、キャンバスとしてはすごくシンプルなので、その上にいろんな人が自分の好きなものをのせていただければと思っていますね。