2017.5.2 公開
日本のものづくりも、
電力も、地産地消がいいね。
久米繊維工業 取締役会長 久米信行氏インタビュー(2/2)
- トップランナーが集まっている場所に行く
- 久米氏は、いつも時代の先を見ていらっしゃるように感じますが。
- 久米氏
- こんな大変な商売でも私が辛うじて生き延びているのは、それぞれの時代に一番、トップランナーの人たちが集まってる怪しい場所、時代のホットスポットみたいな所にいたからだと思っているんです。
例えば1996~7年ごろ、インターネットを始めたんですけれども、勉強会に行くと孫正義さんがいたりする。その頃、インターネットの賞をいただいたりして、いろんなご縁ができたし。その後はオーガニック・コットン協会に入っ て、飯田さんのような、エコのトップランナーの人たちとお友達になったり。その後は日本財団のNPO CANPANセンターの理事をやって、いろんなNPOのトップランナーの人とお友達になれましたし。数年前から観光地域づくりやってますけど、全国で観光地域づくりやってる人って、かっこいい人多いわけで すよ。東京の人が地方に行って、かっこいいことやったりね。
何か怪しい、この人すごいなって人がいたときに、言われたことをすぐやるのがやっぱりコツですよね(笑)
そして今はというと、これからは僕、文化、芸術、教育だと思っているんです。一番、ビジネスから遠いところですけれども。そこに新しい面白い人もいるので。 - 確かに教育の分野って、いろんな可能性がありそうです。
- 久米氏
- 今までの20世紀の教育は、ある意味金太郎アメ。海外にたくさん輸出しなきゃいけないし、日本全国にお店つくんなきゃいけない。どこを切っても同じ。21世紀には、そんなこと求められてません。カフェだって、こんなとこが!?って所が繁盛する。マスコミが取り上げなくても、みんなネットで探して口コミで探すから、素晴らしい時代に突入してきてると思います。
私は大学でも教えているのですが、学生はやっぱり大企業に就職したがっている。だけどそういう時代が終わって、地方でたった1人のパン屋さんだけど繁盛してる人もいるし、いろんな生き方ができるようになったということを教えていかないといけないし、そのためにも教育を変えていかないといけない。 - 都会を超える、「地方」の可能性
- 久米氏
- 皆さんの友達もそうだと思いますけど、都会でばりばりの人が結構、地方に行くでしょう。地方に行ったら5分の1ぐらいの給料でも暮らせるし、給料なくても暮らせる人もいる。
そして、地方で何かやるのって、都会よりもハードルが低い。たとえば錦糸町でラーメン屋をやるのは競争がすごくて大変だけど、だったら地方でやればいい。パン屋さんとかラーメン屋さんとかカフェが必要なのに、地方にはないから。そしてそのカフェがちょっとオーガニックだとか、エコだったりしたら、たちまちそこら辺の人も変わっちゃう。そういう面白いリミックスみたいなもの、これから起きてくるだろうと思うんですよね。 - 地方での面白いムーブメント、たくさん起こりそうです。
- 久米氏
- そういう所にエネルギーで言えば、地産地消のエネルギーが入ってくると、とてもいいと思うんですよ。
僕がすごく印象的だったのは、パネルディスカッションでご一緒した山崎養世さん(注:1958年生まれ。実業家、経済評論家)。元はゴールドマン・サックスの日本代表だった方が、今は『太陽経済の会』っていう、太陽光発電をい かに広げるかみたいなことをやってらっしゃる。その山崎さんが、太陽光発電は投資としてもちゃんと価値があると。
お金のこと考えても、そういう時代になったと言ってるんですよ。これからは6次産業ネットワークだよって。ザ・資本主義みたいな、ゴールドマン・サックスだった方が言ってるわけですよ。面白くないですか。 - 「6次産業ネットワーク」って何ですか??
- 久米氏
- 6次産業っていうのは、農業から始まって付加価値のあるものまで全部やろうということです。
地方が貧しいのは、モノカルチャー(※特定の産業に依存する産業構造)で、農業だけとか資源だけだから。発展途上国の問題と同じなんです。
分かりやすい例でいうと、ユズをそのまま農協で納めておしまいな地方もあれば、ユズゼリーつくって道の駅で売って、すごく儲けてる道の駅もあるし、地方もある。さらにユズだけじゃなくて、道の駅がハブになって、地元の果樹園さんの果樹狩りのコンシェルジュをやって地域を潤す人もいるわけですよ。こういうのが6次産業ですね。ソフトをどんどん付け加えてやろう。そこにエネルギーが加わっていけば、エネルギーまで地元でつくれるなら、こんないいことないでしょっていうことを、山崎さんのような人が言ったのがもう7~8年前なんですよ。 - エネルギーを軸にいろんな産業がつながって、回っていくんですね。
- 久米氏
- 確実に新しい時代が始まってる。だけど、ミクロでたくさん起きてることにマクロが付いていけない。どうしても政治家や大企業がなかなか付いていけないから大変ですけれども、ミクロの現象で見ると、そういう楽しい新しいことがたくさん起きてると思います。
- 日本人はなぜ、田舎の美しさに気づかないんだろう
- 最近「地方創生」という言葉をよく耳にしますが。
- 久米氏
- 地方創生といっても、単に箱モノつくったとかじゃなくて、地域発でやってるのは結構、面白いことが多いんです。
例えば、これも7~8年前ですけれども、徳島の神山町というところに、大南(信也)さんっていう、ある意味とんがったエコとソフトを考えてる、NPOつくった方がいらっしゃるんですよね。
僕はある日、トム・ヴィンセント(注:1969年生まれ。トノループ・ネットワークス代表)っていう日本が大好きなイギリス人に連れられて、神山町に行きました。彼はイギリス貴族の生まれで、だけどニューヨークに行ってアートを学んで、さらに西海岸に行って、その後日本に住みついて、日本の奥さんもらったっていう人なんです。その彼が大南さんと日本のいいものを発信するサイトをやっているので、僕も一緒に講演に行ったんです。
徳島でレンタカーを借りて、トムの運転で行くんですけど、「なんで日本人は、こんな美しい田舎をこんな醜くするんですか」って僕に聞いてきて。ロードサイド走ると全部同じような光景ですよね。 - 確かに、どこの地方のロードサイドにも同じようなお店が並んでいます。
- 久米氏
- 神山町を小1時間走って、お遍路さんしか歩いてないような場所に来たとき、トムに「イギリスのお金持ちはこういう所に1億円の家を建てるんです。何で日本のお金持ちは、六本木ヒルズに住むんですか」って言われました。
- なるほど…。それは、耳の痛い話です。
- 久米氏
- そこのちっちゃな商店街みたいなところで、古民家を1戸壊すっていうんで、トムが「やめてくれ、僕がここをオフィスとして引き受ける」って言って、かっこいい古民家オフィスを作ったんです。彼はIT関係の経営者だったんですが、ITの仕事してるとメンタルに問題ある人が出てくる。だけどここに1カ月ぐらい住まわせて、復帰してから戻すってことにしたら、1カ月で、移り住んだ社員は東京に帰りたくないって言ったんです。
今、どうなったかというと、NECや富士通もサテライトオフィスを神山町に移しました。
- 最先端な仕事ほど、田舎が合っているのかもしれませんね。
- 久米氏
- 神山町には、かわいい若夫婦がつくったおいしいパン屋さんとカフェもあって、大繁盛してるんですよ。土日は徳島から1時間かけてみんな買いに来る。普段は地元のおじいちゃん、おばあちゃんで大にぎわい。孫が来たようなもんですからね。かわいがって、みんなで寄り合いになってる。
不思議な現象でしょう。お遍路しかいないような所に、1人変な人がいて、アーティスト・イン・レジデンス(注:ある土地に一定期間アーティストを滞在させ、作品を制作させること)とかやってたら、外国人がやって来て、IT企業がやって来て新しい町ができた。すごく面白いですよね。 - そういうことが、これから日本全国で、どんどん起こるんでしょうか。
- 久米氏
- たくさん起こる。別に神山のまねするわけじゃなくて、それぞれの町の特性に合ったことをすればいいわけでしょう。感度の、アンテナの立った人たちが地方に行って、そういうブリッジパーソンみたいな人がいると、うまくいくっていう例が今、たくさんあります。
- オタク同士は、ジャンルは違えど親和性がある
- そもそもの話ですが、なぜ久米氏はインターネットだとか、グリーン電力だとか、地方のいろんなムーブメントだとか、時代の先端にあるようなことに取り組もうと思われたんですか。
- 久米氏
- それは、時代のホットスポットみたいなところに行って、何か怪しい、自分と違うものを知ってる、この人すごいなって人がいたときに、やれと言われたことをすぐやるようにしているからです。それがやっぱりコツですよね。
- それはやっぱりおじいさんの代からTシャツ屋さんをやっていらっしゃって、ご自分が次どうするかを考えて、いろんな新しいことにアンテナを張ってらっしゃったんですか。
- 久米氏
- 今までのやり方じゃ、父親の生き方見ても、この商売ってやっぱり10年同じことは続かない。ブランドもなかなか10年続かない。時代はどんどん変わってちゃうわけですよ。繊維/アパレルの世界自体はすごい古い世界なので、違う業界の人と一緒にいないと分からないんです。
だから、それは例えば地酒の人かもしれないし、今面白いのは自動車メーカーさんとのコラボTシャツ。 - 車のTシャツ?
- 久米氏
- そのTシャツが面白くて、車の絵やロゴじゃなくて、何か丸いギアみたいのがかいてあるんです。これ、フライホイールといって、エンジンの弾み車なんですよ。そんな部品があることも知らないのが普通ですけど、オタクっぽさが受けているんです。これも21世紀的な面白い話で、男だけじゃなくて、女子のオタクもすごい。
- 女子のオタクってどんなのですか?
- 久米氏
- 僕は好きなTシャツを作るワークショップをやってるんですけども、今年、一番いいなと思ったのは、刀のTシャツです。今、「刀剣女子」っていうのがいるんですよ。ゲームがきっかけなんですが…。今、戦国時代展とかに行くと、女子が刀を見るために行列してる。
- えええ!全然知りませんでした。面白いですね。
- 久米氏
- グリーン電力もある意味オタクな世界ですけれども、グリーン電力の話をすると、こだわってる人には「そこまでやるんですか」って共感してもらえる。
オタクとオタクは親和性があるんです。そこが面白いですね。こだわらない人は徹底的にこだわらないけど、こだわる人は徹底的にこだわる。 - 広く浅くっていうんじゃなくて、ピンポイントにその人のツボを突くほうがいいんですかね…。
- グリーン電力にして良かったと思うこと
- 久米氏
- 私たちの場合は、アーティストやデザイナーとのお付き合いが多いですけど、そういう方って地球環境問題に関心がある方が多い。オーガニックコットン業界のデザインされてる方とか。そういう点で親和性があったんで、グリーン電力をきっかけに、普通のただのTシャツのビジネスだったら会えなかった人たちと会えたんです。
エコのNPOもそうだし、アーティストの人もそうだし。企業でもやっぱりエコを標榜しているような企業とのコラボレーションもできるでしょ。 - 確かに、地球環境に対する意識の高いもの同士つながっていく。
- 久米氏
- あと、グリーン電力を採用して良かったことといえば…
今、学生たちを見ていて思うのが…自分で納得できる仕事をしたいっていうニーズが、今、若い人にすごく強いんです。うちの社員ももちろん強い。
だから、幾ら会社がもうかったりして大きくなったりしても、たとえば自分が死ぬ間際になって、エコ教育を受けた子どもとか孫に「おじいちゃんの会社を大きくなったけど、地球汚したよね」「コミュニティー破壊したよね」とか言われたら人生台無し。私はもちろん、社員もみんなそう思ってるはず。
「うちはグリーン電力使っています」と言えると、やっぱりちょっと意識が変わりますよね。お客さんも気持ちいいし、社員も気持ちがいい。それは、とても大切なことじゃないかと思うんですよね。 - そうですね。自分が誇りを持って仕事ができますよね。
そんなグリーン電力が、今回グリーナでんきという形で一般の方にとってより身近な電力になったわけですが、それによってどんな未来が実現すると思われますか。 - 久米氏
- 私は、一番理想的で幸せな社会っていうのは、やっぱり自分が日々使うものやサービスなどをつくっている人が分かる社会だと思うんですよね。
ただ電気使うだけだと請求書が来て終わり。だから、どういう場所でどういう思いでつくっているかということが分かるといいなと思うんです。 - つくり手の顔が見える電力ということですか。
- 久米氏
- 例えば、私たちがお手伝いした福井の造り酒屋さんでは、杜氏の奥さまがずっと毎週メールマガジンを出して、その酒造りのプロセスを教えてくれたりする。自分で米も作っているんですが、例えば台風が近づいてきてるので、蔵元が今、田んぼを見に行きました、とか書いてあったりするんです。
これ、発電所でもできそうじゃないですか。すごく風が強いので今、見に行って大丈夫でほっとしましたとか。今年はちょっと太陽が少ないので心配で、みんなで磨きに行きましたとか言ったら、何か見える化してうれしいですよね。 - 確かにそれは面白いし、電気を大事に使おうという気にもなります。
- 久米氏
- だから、そのプロセスが全部伝わってくるといいし、子育て兼ねて、そこ(発電所)に見に行ったりするツアーなんかをやって、そこでつながりができてもいいかなと思うんです。
私たちがグリーン電力証書やってて良かったこととも共通していますが、これまで知り合うことのなかった人たちと知り合えるかもしれない。電力を通じて誰かと知り合うなんて今まで全然なかったけれど、その電力を使って何かライブコンサートをやって、そこにみんなで行こう、とかね。それをつくっている会社の工場見学に行こうとか…。 - グリーン電力を中心につながる縁、変わる未来
- 久米氏
- 電力って、どうしても単純に安いところはどこってなりがちじゃないですか。でもそこに、自分の楽しみとか、あとは子ども関連のこととかが関係してくると違うものになる。うちもそうですけど、一番エコ意識が高まったのって、子どもが小っちゃいときなんですよね。やっぱり次の世代に地球を残していかなきゃいけない。だから、親子で行ける企画がいっぱいあるといいなと思うんですよね。そして、観光とも接点があったほうがいい。
- 確かにそういうイベントやツアーがあったら親子で参加したくなりますね。
- 久米氏
- 私たちのようなエコなものづくりをやってる立場からすると、有機の野菜とか、無添加のせっけんとか、そういうものを買う人がその輪から広がっていけばいいですよね。そういう情報ともつながっていく。
今、インフラ観光も流行っていて、貯水施設やダムとかを見るの流行ってるでしょ。だから、発電施設を見るツアーとか、それの写真コンテストとかインスタグラムとかあったら面白いかも。 - 確かに!発電所の写真コンテスト、やってみたいですね。
- 久米氏
- いいでしょう? 今、インスタだからね。全国の灯台を撮ってる人と同じように、発電所を見て家族で写真撮ろうとかね。
最初の話に戻ると、誰がつくってるか、どうやってつくってるか分かると愛情が湧くし、それを使っている仲間たちと出会えて、縁ができれば、ますますそのコミュニティーが大切になる。そんなことが、私たちの商売もそうですけど、価格以外の価値につながるんだと思いますね。 - 取材日:2017年2月某日
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- ●久米信行氏プロフィール
- 1963年墨田区生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、証券会社などを経て家業の国産Tシャツメーカー久米繊維工業の3代目に(現・取締役会長)。APEC2010中小企業サミット日本代表。日本発ものづくり提言プロジェクト発起人。明治大学商学部「ベンチャービジネス論」講師。日経インターネットアワード「日本経済新聞社賞」、IT経営百選「最優秀賞」、東京商工会議所「勇気ある経営大賞 特別賞」など受賞。墨田区観光協会理事としても、地域の観光・産業振興に挑む。ベストセラー『すぐやる!技術』をはじめ、著書多数。